夏の終わりに「もの思ふ」こと

 大学に奉職して以来、授業は休みになるものの、かえって夏の方が研究・調査を含めた業務が繁多となる傾向にあります。というわけで、このコラムをお届けするのが遅れてしまったことをご容赦ください。

 さて盛夏のある日、友人の口から「銀河鉄道が夜空を駆け上がっていくように見えるらしい」という妙にロマンティックな言葉が聞こえてきました。どうやら「スターリンクトレイン」のことのようです(例の青い小鳥のロゴマークを×印に変えた御仁の会社の人工衛星群のことで、時節柄、その社会的・政治的影響も見逃してはなりませんが、今回は異なる文脈の話です)。その友人によれば、何でも衛星がその日に登場する方角と登場時刻のわかるスマホの無料のアプリがあり、インストールしたとのこと。その日の明るさの等級まで表示されるとのことでしたが、その後しばらく経っても特に報告が無いので、冷やかしたところ、やはり肉眼で見るのは難しいようでした。ただ負け惜しみからか、「課金すれば、衛星の通るコースを刻一刻と現在進行形でARが教えてくれるはず」と言います。そこで「自分だったらボヤく前に試してみるけどね」と煽ってみたところ、売り言葉に買い言葉か、「ちょっと待ってろよ」という話になったその夕刻。薄暮の空が群青から宵闇に替わろうか、というその瞬間。仰ぎ見るアプリが指し示すコース・・・。すると確かに見えました。北西から北の空にかけて、それは街空の中、一定の間隔で流れ星が通過していくような有様でした。

 そのときにふと思い出したのは、大学時代の恩師の言葉です。「レジャーは『祝祭』を源泉として展開されてきた」という講義の意味がわからず、「『祝祭』とは何ですか?」と質問したところ、「暦に応じた祭儀で教義が立ち顕れる場です」という答えをいただきました。そのときは「たとえ目に見えないものでも、サポートしてくれるものがあると、見えるようになるのか」というところに関心が向きましたが、今回の話とのつながりで言えば、アプリのサポートが無ければ「銀河鉄道」の姿を見ることは叶わなかったかもしれない、ということです。またそれに続いて思い出したのは、「どんなに価値のあるものがあったとしても、その価値のわかる人間がいなければ、存在しないのと同じになってしまう」という言葉でした。そう言えば、その土地の価値あるものについて、より多くの人に振り返ってもらうための支援プログラムづくりをしているのだったなあ、と夏の終わりにあらためて自分の現在位置を確認した次第です。