ALSA2023 から:都市を再野生化する? - 野生の自然と構築された自然

(ALSA 2023に参加して、発表者と討議したことや考えたことを、いくつか紹介します)

Daniella Sachs, The call of the wild – the need for rewilding our cities

 『野性の呼び声』と聞いて懐かしく思われるでしょうか。あるいはWhite Fangの方が私は好きだな、と思われるのかもしれません。
 Daniellaさんはデザイナーで、この世界に真のインパクトを与えるプロジェクトや製品、プログラムをデザインし確信しつくりあげることを探求し続けてきたと述べます(A quest to understand how to design, innovate and build projects, products and programs that have real impact on the world)。世界各地で様々なプロジェクトに関わり、今は、ReImpact Studiosというコンサルタント企業の創業者です。


 彼女の研究提案である「都市の再野生化」は、もちろん地球環境問題激化への対応策として提起されたものです。気候変動は、居住環境の気温上昇としては、都市により多くの危険をもたらす。公共空間の緑地はそれを確かに緩和するが、現在のアップリケのような都市緑化政策では不十分。気候変動に対する都市の回復力を高めたいのであれば、都市の再野生化に目を向けよ、という主張です。
 ご自身を、a disruptive strategic impact designerと呼ばれるように、「破壊的なインパクト」を与えようというものかもしれませんが、そのお話を聞くと、ライオンや象が都市を歩き回る(南アフリカを主会場とする会議でしたので)というものではなくて、都市を生態系に準拠したものにすることが、気候適用メカニズム構築の実現への道だというもののようです。
 そうするとこの提案は、あることを思い起こさせます。アムステルダムの取り組みを代表として世界に知られるCircular Economyの基礎となる概念です。サーキュラーエコノミーは、持続可能な都市文明形成に向けたEUの政策パッケージですが(action plan, 2015)、その基礎には、生態系のモデルに基づく経済の再構築が構想されています。
 日本にも、法律にもうたわれる循環型社会という言葉がありますが(循環型社会形成推進基本法, 2000)、3Rの法制化といった、廃棄物を生むことを必然とする工業化社会についての技術的改善というイメージでとらえられがちです。一方、Circular Economyは、自然界にはゴミは存在しない、すべては循環している、という生態系のモデルから、いわば人間社会の経営( political economics)を存在論的に問い直そうという射程を持っているともみられます。そのような理解のためか、日本語で記述するときにも、既存の似た言葉との混同を避けるためか、サーキュラーエコノミーと記述されているようです。
 その概念面については、Ellen MacArthur Foundationが丁寧なガイドブックを提供しています。
 このように彼女の提案を考え直し、そのうえで「都市の再野生化」という考えを受けとめ直してみると、その本意はむしろ、「野生Wild」にはないのではないか、とも思えます。A. Berqueの風土学における基本的な概念セットのひとつに、野生の自然と構築された自然 nature sauvage et nature construit があります。構築されたのでは自然といえないのではないか、と思われるかもしれませんが、人間にとって客観的な野生の自然は現実することはなく、自然は必ず文化の言葉で構築され主体によって生きられる、という存在論的認識に基づくものです。人間が意識し得るのはこの構築された自然だけであり、そしてまたこの自然は野生の(客観的な)自然から切り離されることもありません。
 Daniellaさんに「都市の再野生化」とは、この構築された自然への認識の深化の必要を、都市において問おうとするものではないかと、受けとめてみたのです。